貞松病院(長崎県大村市)におけるコアセラピーの実践
院内および地域での取り組み
貞松病院リハビリテーション科
杉野伸治
(1)導入
当院にてストレッチポールを使ったリハビリテーションを導入したのは2003年であった。現在の広島国際大学保健医療学部准教授 蒲田和芳先生(JCCA理事)が以前横浜市スポーツ医科学センターにご勤務されていた頃、研修に伺った際にストレッチポールを使ったコアコンディショニングを教わった。私自身の感覚としても臥位での姿勢の変化が心地よく、長崎に帰った後、臨床現場にも取り入れたのが始まりである。当初は腰痛を主としたリハビリテーションに用いていたが、変形性膝関節症などの下肢疾患における脊柱のマルアライメントの改善目的や肩関節周囲炎などの上肢疾患における胸郭へのアプローチなどその適応範囲は拡大されてきた。また、元来の目的であるスポーツ選手のコンディショニングツールとしても使用し、2004年からの回復期病棟の立ち上げからは中枢疾患への導入も行っている。つまりリハビリテーションの対象となる患者において、ポールを使用することでのリスクがない限りはすべて適応となっているのが現状である。誤解のないよう付け加えると、ただ闇雲に使用しているのではなく、対象者の評価の結果必要となっているのである。
(2)院内での実践
当院のリハビリテーションは理学療法士と1名のJCCA認定マスタートレーナーとのコンビネーションで成り立つ。例を挙げると下肢疾患の場合、痛みによる非対称的な歩行パターンは骨盤アライメントに影響を及ぼすことが考えられる。事実、ほとんどの患者において無痛者と比較して明らかな骨盤アライメントの異常を確認できる。これは患部の痛みの改善後も荷重パターンに影響を及ぼすことが予測され、再発または新たな疾患の原因となることが考えられる。したがって当院では患部の治療を理学療法士が主に行い、並行してマスタートレーナーがコアセラピーの介入を行っている(写真)。
また、コアセラピーの直接的な効果を及ぼす脊柱疾患においてはホームエクササイズとして非常に有効であり、運動メニューを覚えていただいた方にはポールの貸し出しや、購入を勧めセルフケアに役立てていただいている。

(3)地域での取り組み
「病院と地域の連携事業におけるコアコンディショニングの実践」
当院では①高齢者の体力低下、②中高年者の整形疾患予防、③スポーツ選手の外傷予防の3本柱で地域での啓蒙活動に取り組んでいる。リハビリテーションにストレッチポールを導入した2003年以降、健康教室や我々が主催する中高年者を対象とした整形疾患予防教室、スポーツ選手を対象としたスポーツ外傷予防教室では「姿勢(アライメント)」をテーマに取り組んできた。その中で、マルアライメントが動作へ及ぼす影響や疾患との関係性を伝えていくと同時に、姿勢の改善を目的としてストレッチポールを用いた運動を紹介してきた。
整形疾患予防教室では、多くの方が悩まれている腰痛症はもちろん、胸郭アライメント異常から影響する上肢の問題や、骨盤アライメント異常による変形性膝関節症などの下肢荷重関節の問題などを取り上げてコアコンディショニングを指導してきた。ストレッチポールを用いたコアコンディショニングは、体験者にとって姿勢の変化が理解しやすく、姿勢の変化による上下肢への効果が得られやすいことや、セルフエクササイズとして用いても効果の再現性が高いため、自宅へ帰っても継続して利用していただけているところに特徴がある。従来まで行ってきた健康教室では柔軟体操などを指導してきたが、自宅で継続している方はほとんどいらっしゃらなかった。現在では必要な筋力トレーニングや柔軟体操と組み合わせながらストレッチポールを行うことで、効果も実感でき、継続した運動習慣を身につけていただいている。
地域の公民館を利用した運動教室では、「自分の体は自分で守ろう」を合言葉に40歳代から80歳代までの幅広い年齢層の方がコアコンディショニングに取り組んでいる(写真)。この取り組みは4年ほど前より始めており、開始当初は教室の時間が近くなると、ポールを担いだ参加者が町のいたるところから次々と公民館へ集まってくるといった異様な光景が見られたが、現在ではそれが見慣れた光景となっている。
スポーツ分野では当院理学療法士は、病院近隣の学校の部活や社会人チームへ怪我の予防やリハビリの経過観察を目的として現場訪問を定期的に行っている。その中でもコンディショニングの道具としてストレッチポールは欠かせないものとなっており、最近ではパフォーマンス向上のためのエクササイズの道具としても利用している。
今後もこういった地域への啓蒙活動は継続していく計画ですが、テーマでもあります「姿勢(アライメント)」を伝えていくうえではストレッチポールは欠かせない道具の一つになっています。
(4)貞松病院における研究活動
当院における研究活動は2004年に当時長崎大学に所属していらっしゃいました横山茂樹先生(現在:吉備国際大学 コアセラピー研究部会会長)とコロラド大学ヘルスサイエンスセンターの蒲田和芳先生(現在:広島国際大学 JCCA理事)よりストレッチポールを用いたコアコンディショニングの効果発現メカニズムを調査する研究プロジェクトを提案されたことから始まります。以前より小規模な研究活動は続けていましたが、今回のように研究計画から研究のコーディネート、医師や放射線技師など他職種との協力、または他病院との連携からなる研究は初めての経験でした。様々な方の指導や協力のおかげで結果にまでたどり着くことができ、2006年以降全国理学療法学会、臨床スポーツ医学会、カナダで開催されました世界理学療法学会に発表することができました。
私自身以前より臨床現場においても臨床現場でしかできないリハビリテーションの発展や患者様の健康へ貢献できる研究活動をしていく必要性を感じていました。そういった中、今回の研究プロジェクトを通して当院スタッフの研究活動に対する意欲や探究心を垣間見ることができ、貞松病院研究会発足を決意する一つのきっかけとなった研究プロジェクトであったといっても過言ではないでしょう。
研究会発足以来、蒲田先生には毎月1回当院で開催する研究会に研究指導者としてアドバイスをしていただいています。主な活動内容としては1)研究テーマに関する論文を主とする世界からの情報収集、2)研究課題の立案と実施、3)現在進行中の経過報告を行ないます。また、研究の質の向上を図るために研究方法論の勉強や英文抄読などを行ないながら研究や論文を見る力を養っています。活動開始後1年半程経過しようとしていますがコアコンディショニング関連の研究においては表に示す学会報告を成果として残しています。また、研究班としても他施設のスタッフを含み、1)脊柱班(写真)、2)SMT班(X線透視画像を用いたshape-matching法による運動解析)、3)スポーツ班、4)回復期リハビリテーション班の4班をつくり、それぞれの活動に取り組んでいます。私が関わる脊柱班では主にストレッチポールの効果発現メカニズムをテーマに取り組んでいますが、今後は腰痛症患者向けのコアコンディショニングの効果やコアセラピー講習会でも紹介しています。またATM2の効果などをみる研究計画が進行中です。
□ 研究成果
研究テーマ | 発表者 | 所属 |
ストレッチポールを用いたコアコンディショニングが体幹及び肩関節柔軟性に及ぼす即時効果(日本理学療法学術大会 2007) | 森内美穂 | 菅整形外科病院 |
ストレッチポールを用いたコアコンディショニングの即時効果に関する対照試験 ―健常者呼吸機能への影響―(日本リハビリテーション医学会 2007) | 秋山寛治 | 貞松病院 |
ストレッチポールを用いたコアコンディショニングの短期効果に関する実験的研究―体幹及び四肢近位関節の柔軟性と矢状面脊椎アライメントに及ぼす効果―(日本臨床スポーツ医学会 2007) | 廣庭美紀 | 貞松病院 |
Effectiveness of Core-Conditioning Exercises Using A Stretch-Pole on The Spinal Realingment and Flexibility ― A Single-Blinded Randomized Control Trial― (世界理学療法士学術大会 2007) | 貞清正史 | 貞松病院 |
骨盤アライメント対称化エクササイズ(PelCon)がドロップジャンプ時の膝関節外反に及ぼす効果―無作為化対照研究―日本理学療法学術大会 2008) | 楢林孝子 | 楢林整形外科 |
| 骨盤非対称アライメントの臨床評価法の再現性と妥当性 (日本理学療法学術大会 2008) | 西村恵子 | 貞松病院 |

(5)リハビリテーション科における理学療法士とトレーナーとの連携
当院リハビリテーション科はスポーツ・一般外来部門、急性期入院部門、回復期入院部門、訪問リハ部門の4部門から構成され、それぞれの部門にそれを専門とするセラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)が配置されています。さらに、リハビリテーション科の大切な仲間として2名のトレーナー(内1名はJCCA認定MT)が所属しており、セラピストと連携をとりながら患者様の治療に取り組んでいます。当院のリハビリテーションの特徴の一つはトレーナーの存在であるとともにその連携にあると思います。
具体的な例として急性腰痛症で受診したスポーツ選手を通して紹介しましょう。患者は大学バレーボール選手で医師の診察後リハビリオーダーが出されました。まずは我々理学療法士が選手の問診や身体評価を行い、改善に向けたリハビリプログラムを検討していきます(写真1)。

その後トレーナーと相談し運動プログラムの一部をトレーナーに依頼します(写真2)。

運動プラグラムを実施後再度セラピストは選手の状態を評価し、改善し得ないものに対してのみ徒手的療法や運動プログラムの再検討をします(写真3)。

限られた治療時間で理学療法士一人が選手に対して出来ることは少ないですが、トレーナーとの連携によりチームとして取り組むことで治療効果は確実に向上すると感じています(写真4、5)。

また、選手にとってトレーナーの指導によるストレッチやトレーニングなどのアクティブ(自動)な運動プログラムを経験することで得られる治療効果は、今後の選手生命を守る上で非常に重要であり、特に小中学生のスポーツ選手にとっては教育的影響もあると考えています。また、我々理学療法士にとっても治療効果を上げていくには選手の協力が必要であり、トレーナーによる選手教育がそういった環境を作り上げてくれていると思っています。
ただし、セラピストとトレーナーが同じフロアで働くことはメリットのみではなくデメリットも存在します。互いの知識や経験あるいは治療に対する考え方は多少なりともギャップはあるかと思います。我々はそんなデメリットをできる限り少なくするために、一つのチームとして勉強会や会議を行っています。互いの役割を理解し、互いの特徴を活かし合うことでいいチームができると思っています。
今後当院リハビリテーション科は施設拡大を行い、各部門におおいてそれぞれ新たな取り組みをしていきます。また、機会がありましたら紹介させていただきたいと思います。